聞く力のある国

昨日は午後になって、来客。ブックパッカーのアンテナサイトに、初めて信州大学の学生がやってきた。アンテナサイトの客層は、感触的には男女半々だが、来客履歴を見てみると、やはり女性のほうが多い。で、学生第一号は、男性だった。

自分のいまを言葉化する意欲が十分に備わっていて、嬉しかった。東京にいた頃、たくさんの学生と出会ったけれど、自分を言葉化・音声化して伝えることのできる学生は多くなかった。すべての営みの大半を、言葉を通してのコミュニケーションによって支えているのが人間であるから、その大前提となる「自分の言葉化・音声化」がいま日本人に足りなくなっているのであれば、日本人の先はそこそこもう見えてしまっていると思う。だから、アンテナサイトにやってきた最初の学生が彼のようなひとであったことが、嬉しい。

自分というのは、自分そのものであるかのようでいて、実は「もう一人の自分」という要素が濃い。平易な言葉を使っていて、なのに妙に説得力のある話者は、そうした、自分との会話に長けている。彼らは「話し上手」なのではない、「聞き上手」だ。聞く力をある程度備えていれば、それが他者や社会、さらに世界、100年スパンの未来図、といった他の対象との会話も、うまくやっていける。

明確な国家ヴィジョンを国民に描けずにいるここ数十年の日本は、「聞き上手」な国ではない。先の参院選でいまだに「成長」を掲げる自民党は最低だったし、なかなか良好な国家ヴィジョンを打ち出して、聞く耳のある政権与党になったかなと思わせてくれた民主党も最近では尻すぼみになっていて、これだけ国民が自分たちの声を政治に届けようと腹を決めた時代はここ数十年のあいだにはなかったことなので、彼らのもうひとつ軟弱なさまは寂しい。

ここでぼくら一般人に何ができるのかというと、政治家を嫌うことではなく、助言(次につながる批判も含めて)と応援を送ることなんだと思う。政治家の醜態にどんなに呆れても、結局のところ、この政治家を選んだのはぼくらなのであって、この国がうまく立ち行かない最大の原因は、ぼくら自身にあることを知ったほうがいい。で、ぼくら自身のどこに問題があるのかというと、つまりそれこそ「聞き下手」だというところだと思う。

この本は、国を動かす本来の舵取り役であるぼくら一般人に、その聞く力を教えてくれている。著者の本を読むのは初めてだけれど、彼の描く国家ヴィジョンと、それに必要な「産業構造のシフト」「成長論から分配論へ」「市場メカニズムの尊重」といった戦略図、そしてそれを支え運営していくための組織体制やルール案は、ひとつの図案に収まっていて、とても理解しやすかった。また、後半には、ぼくらの委任を受けて国会で働く政治家の最大の障壁である、官僚機構とメディアの実態もシンプルに明らかにしてくれている。ぼくらがふだん聞いているニュースがいかに「そう聞かされてしまっている」かを知る、つまり、そういう罠に陥っている自分のいまを聞くことができるので、ぜひ読んでほしい。

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