「最初は優しく近寄ってきて、そして秘密を交わすんだ」

衛星放送で今も放映している「ER 緊急救命室」を、先日実家に帰ったときになにげなく観ていたら、医者がこんな告白をする。「やつらはいつもは良い人を演じている。最初は優しく近寄ってきて、そして秘密を交わすんだ。気づいたときにはもう手遅れさ。罪の意識に追われるようになる。」医者には幼い頃、大人の男性との性交関係を強要されていたという設定。数年ぶりに観たこの番組で、なんでこういうシーン。

ちょうど読んでいた本は、キャスリン・ハリソンのノンフィクション『キス』。牧師だった父親との関係が赤裸々に、叙情的に語られている。だから、「ER」の彼が泣きながら語ったその台詞が、妙に身近だった。

読んでいても「暴露本」という安易な印象にはならないのは、文章がものすごく詩的だからか、フィクションとノンフィクションを行きつ戻りつしている感覚に陥る。美しくも、ときに怪しく、危険な香りを強烈に放つ。近親相姦という暗闇に苦しみながら、その快楽(何に快楽を感じているのかは、彼女の場合、数種あるのだが)に恍惚としている様が伝わってくる。彼女の周囲にいる人々、特に家族たちは皆、それぞれに強い信仰心を、それぞれの対象に抱いている。その信仰の深度があまりに鋭利で、直進的で、まあ病的。アメリカという国の「誰もが移民」という不安定が、こういう表情を浮かばせるのか。

表表紙の写真に写る女性は、著者の若かれし頃の写真。父親が執拗に撮りつづけた娘の写真。読み進めるうちに、彼女の表情の意味を知る。

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