リンゴを配る旅


Photo by Go Uchida.

日を遡って書くものを「日記」と呼べるかどうか怪しいところだけれど、日付指定の機能を使って3日前のことを書いてしまおうと思います。毎日タイムリーに更新するというのは、いやはやむずかしいものです。

今回の松本滞在は、総括してみると「リンゴを配る旅」だったと思う。27日から3日間松本に滞在した初日、行くたびになんやかんやでお世話になっているガラス作家の笠井邸で、おいしいリンゴをいただいた。で、うまいうまいと言っていたら「持っていけば?」と、リンゴがたくさん入ったダンボール箱をひとつ、わずか2000円でいただいた。実はこれまでの松本滞在でも、必ずと言っていいほど、行く先々で「これ持っていきなー」と食べものをもらう。今回はまずリンゴをもらい、みなの通例に従って、ぼくも行く先々で「これ差し上げます」とリンゴを配った。

27日は、別にリンゴをもらいにいったわけではない。来年1月以降入居予定の家の全部屋寸法を測りにいった。2時間強、大きな家の隅々の寸法を測ると、なおのことこの空間が愛しくなっていく気がした。これからますます忙しくなっていく。が、手抜かりなく、あの空間を「澄む」空間に作りあげていけるようにしたい。

ちなみに、リンゴを配り歩いた先で、キャベツを2玉もらった。

今年、7度目


Photo by Go Uchida.

数えたら、今年に入って7度目にもなっていた。

明日から松本に行く。前回の松本旅は、来春の松本移住がまだ決定でなかったので、その思いをまっすぐに書けずに苦労した。今回はちがう。そのぶんこのネタを書くのも気が楽。

金曜日は、見定めている物件の全室寸法を測ってくる。天気もいいようだから、この日と翌日と合わせて空いた時間で、安曇野の再訪できていないギャラリーをまわりたい。土曜日は夕方から、松本から車で40分ほどのところにある朝日村のカフェでブックパッカーを開催。朝日村やその周辺の町から、参加者7名が集まる。日曜日はフリー。

帰ってきたら、来年1月末に開催するワークショップの案内を作る。そして、みなが待ちわびすぎてすでに忘れかけているだろう絵本『かたりべからす』の出版も控えている。年末は忙しい。今年は例年に輪をかけて。倒れないように、しっかり体重を乗せていこう。

民芸家具とともに呼吸する宿



今回の松本滞在は1泊。前回・前々回は知り合いの家に泊めてもらいましたが、今回はいよいよ松本のシンボリックな宿「まるも旅館」に泊まることにしました。

まるも旅館は、松本でもっとも賑わう蔵町通りのすぐそば、女鳥羽川沿いにある老舗旅館。館内には、松本民芸家具があちらこちらに。部屋は6畳一間。中央においてある卓袱台をどけないと布団が敷けないほどのちいさな部屋。かえってそれがなんとも心地がよかったです。旅館そのものの存在感はもちろんのこと、館内のあちらこちらにある松本の民芸家具に触れながら過ごせるこの時間は幸せでした。

朝食をいただいていたときに考えていたこと。ひとの時間の過ごしかたは、場そのものの気配によってだいぶ変化していくということ。もちろん自らの心を穏やかに保つことでできるスローな時間もありうるのだろうけれど、それ以上に「場」自体がその場に根を張っている、その気配があれば、ひとの心も、身体も、意図的に働きかける前にすでに、自ずとスローなものに変化してゆく気がします。ふだん気づくと急いでごはんを食べてしまっている自分を思い出して、この時間の流れかたを身にしたいと思いました。

お店のひと曰く、11月中旬に紅葉シーズンがひとまず終わると、3月までの冬の間、まるも旅館は閑散期に入るのだそう。シーズン中は外国人の宿泊客でごった返していますが、この時期なら貸切もありうるかもしれません。冬にもう一度泊まってみたいとぼくも思っています。

朝日村の家具工房、山形村の長いも畑



今日は朝日村の「カフェ・シュトラッセ」に、ブックパッカーのチラシを届けにゆきました。久しぶりにシュトラッセのコーヒーもいただきました。やはり美味しい。ぼくは深煎りが好き(酸味が苦手)なのですが、なんていうんだろうなあ、口のなかで邪魔にならない感じがいままでに経験したことのない感覚です。ちゃんと身体に染み入っていく、というか。

シュトラッセから車で1分もかからないところにある家具工房「Style Galle」も訪ねました。ここではオーダーメイドで家具を制作。ギャラリーも併設されていて、店主で家具作家の藤牧さんの作品のほか、朝日村周辺の木工作家や陶芸家の作品を扱っています。藤牧さんは松本民芸家具の修行もされた方。作品の木の肌触りがたまりませんでした。卓袱台も、食器棚も、お箸も、使えば使うほど、味が出てくるんでしょう。想像するとニヤニヤしてくる。ひとのいる仕事は、いつも温かい。

さて、写真は朝日村に向かう途中に延々と広がる畑に、時折現れたもの。何だろうと不思議に思っていて、シュトラッセのマスターに尋ねると、長いもだと教えてくれました。これから12月にかけてが収穫期、3月にもう一度収穫するんだそう。この長い蔦の足もと、土のなかに、長いもが眠っています。

ちいさな背中、ケヤキの巨木



11月28日にブックパッカーを開催する会場「カフェ・シュトラッセ」に、できあがったチラシを届けに、松本までやってきた、今日が初日。シュトラッセに行くのは明日にして、今日は町中を歩き回っていました。

松本という土地は、毎月やってくるたびに、町ぐるみのイベントが開催されています。今回も明日31日から松本城で物産展が大々的に開催されるのだそう。月に1〜2度来ているだけの余所者にはわかることではないけれど、夏の短い高地の町、自ら楽しもうとする気概みたいなものがあるかもしれないと思いました。

日本の観光地ではしばしば、観光客へのサービスと見誤って、町本来がもっている文化、もっといえば土地の力を削いでしまうケースが多く見られます。松本もそれがまったくないとは言えないと思うけれど、ぶらぶらと歩けば、まだひとびとが集える神社やお寺がありのままに残っていて、ホッとさせてくれます。写真は、薄川沿いにあるケヤキの杜が立派な「中林神社」。ケヤキの木も然ることながら、神社のとなりに併設されている公民館の立ち姿が愛くるしくて嬉しくなりました。わずかな参道のすぐそばには、隣家の畑。畑仕事をするおばあさんの丸くてちいさな背中を、はるか頭上から見守る神社の巨木。この関係性を、ぼくは生まれてこのかた体験したことがないので、少し羨ましかったです。

明日はシュトラッセにチラシを渡しに、東筑摩郡朝日村へ。

素直なひとたち

今日も松本。ガールフレンドとはまた別行動。ぼくは、東京ではたびたびお世話になっているオーガニックカフェ「カフェスロー」のホームページを手がけたWebプログラマーである北谷さんに会いに行った。それぞれ別のルートから松本に行ったらぜひ会ってみてはと紹介されていた方。カフェスロー以外にも彼が手がけたホームページを観ていて、その両方に共通した空気感を感じていたので、実際の人物のそれも肌で感じ取ってみたかった。

ぼくが松本で出会うひとたちは、偶然か、素直なひとが多い。「素直」というのは、諸刃の刃であるとぼくは思っている。素(もと)に真っ直ぐなので、心で感じているものがシンプルに表面化する。言葉であったり、表情であったり、身体的な距離のとりかたであったり、そういうところに、彼彼女のものとのスタンスや価値観が現れる。北谷さんも、ものすごく素直なひとなんだろうと思った。話している最中の目がずっと澄んでいる。最初に会って少し経ってそれを感じて、あ、これは丁寧に会話をしなければ、と居を正した。心地いい緊張感。楽しい時間だった。

夜は、安曇野三郷の農家・津村さんのお宅へ。深夜0時すぎまで、昆虫図鑑を広げて、世界に数多いる昆虫たちの不思議を聴いた。朝は朝で、朝食を食べたあと、三郷でいま問題となっている産廃施設の話をふたたび聴いた。産廃施設問題にかかわる苦悩を語る津村さんは紛いもなく、前の晩、昆虫談義に子どものように興奮していた津村さんと同人物だ。どちらかでなく、どちらにも素直にある。あり方として、ごく自然なものだと思うし、魅力的だと感じる。直接言葉に聴いたわけではないから憶測だけれど、昆虫への興味が産廃施設への関心とつながっていないわけでもないのではないだろうか。

旅をして、最近得る感覚は、ここにもひとが生きているんだ、という実感。東京にいると、人間の世界があるごく一部に限られている錯覚を覚える。自分のかかわり得る、否、すでにかかわっている世界の全体像の把握力が、地方のスモールタウンを訪ねてゆけばゆくほど、鋭くなってゆく気がしている。そこで出会うひとたちが、自分を、土地を、世界を、素直に伝えてくれるからこそ、ぼくにそういう感覚が甦ってくる。感謝し尽くせない。

ふたたびガラス作家邸



仕事後に出発、昨晩から松本に滞在中。前回寝床を貸してもらったガラス作家・笠井さんの家にふたたびお世話になっています。写真は笠井邸で毎朝出てくる焼きたてパン。

ガールフレンドは早朝から観に行きたいところがあるというので、朝食を食べてすぐ車で現地まで送り、ぼくは引き返して、笠井家の畑仕事の手伝いを。といっても畑仕事のイロハをまるで知らないので、まずは草むしりから。除草剤を撒かないので、すぐに雑草が生えてくる。自然農のある形態では雑草すら抜かなかったり、対処するにしても根っこは残して「刈る」だけにする方法もあるようだけれど、笠井家は「んーどっちでもいいよー」とアバウト。だから抜いたり、刈ったり、好きなようにした。爪のあいだに、指紋の隙き間に、泥がしみ込む。その泥はその晩入った銭湯で洗っても、なかなか落ちなかった。人体に食い込む大地。

三輪家の食卓



旅の記憶は、その旅がより充実したものであればあるほど、あとに引きずる。旅先の景色のなかに帰りたくなる。日常のほうへ簡単には戻ってこれない。いい旅ほど、毎日の連続にちょっとした歪みを生むのだ。川をずっと下ってきたマガモがひとたび陸にあがってひなたぼっこをしたのち、ふたたび川に戻るおり、少しだけ陸のほうを振り返る、あの気持ちも同じかもしれない。

奈良で一晩寝床を借りた三輪家の食卓が思い出される。玄米ごはんのとろみが、まだ舌の上に残っているかのよう。大きなシマオクラの歯ごたえ、輪切りのナスの存在感、作りはじめてまだ日の浅い等身大の味噌、その味噌汁に浮かぶ、豆腐の姿をとどめている立派な油揚げ。ご主人は奥さんの料理にひと言もの申したいところもあるようだけれど、目の前に並ぶ食卓が自分たちの生活によりよく見合ったものであることを知っている。そういう食卓は、質素か豪華かにかかわらず、幸福に満ちている。

ああいう食事をぼくも作りたいと思う。

京都のイラストレーターに会いました。



旅行2日目。奈良橿原の友人宅で一夜明け、昨晩の団体名づくりによる睡眠不足を引きずりながら、朝食をいただきました。味噌汁がおいしかった。味噌も手づくりなんだそう。味噌は自分の家の味を作らないとね。ぼくもやるつもり。

朝食を食べたら、テキパキと準備をして、いざ京都へ。当初は三輪家とぼくはここでおわかれの予定でしたが、旅に行く前「京都でイラストレーターの個展に行く」と言ったら三輪家も行きたいとのこと、3人で出かけることに。奈良の農民と旅の詩人が、寝ぼけ眼で、あるいはヒゲぼうぼうで、京都の絵画展へ。やーおもろい。

個展主は、dannyさん。関西で最近賑わっている若手アーティスト応援プロジェクト「digmeout」のアーティストで、現役大学生のイラストレーター。すでに雑誌の挿絵や企業広告にもそのイラストが使われています。以前から「digmeout」のサイトをぶらぶら覗いていたのだけど、ググッと引き寄せられてしまった絵があったんです。で、メールをしたら、初個展の情報を教えていただいた、というわけ。男性だと思っていたら女性だったり、しかもかなりカワイイひとだったり、いろんな衝撃を受けてたいへんでしたが、絵は見ていたとおり、ステキな存在感を放っていました。1枚、絵を予約。届くのが楽しみです。

その後も、韓国茶カフェ「素夢子」、子どもの本専門店「メリーゴーランド京都店」をまわって、京都駅で解散。ふたりと別れたあとは、京都タワーの銭湯でさっぱりして、なぜか「スロービジネススクール」関西の飲み会に参加。ウィンドファーム中村隆市さん、お馴染み大岩剛一さん、龍谷大学二葉晃文先生に会いました。いま考えても、なぜあそこにぼくがいたのか意味がわかりません。でもいいのです。会場の「マチャプチャレ」はネパール料理店。以前一度来たきり来れていなかったお店だったのです。久々にいただいたネパール料理はかわらず絶品でした。

奈良でも、京都でも、ひとに会って、食って、飲んで、笑って、語って。最近もの凄く思っていることですが、ぼくはずいぶん幸せな日々を送らせてもらっています。明らかに不思議な道の上を歩いている気がするのだけれど、いまさらどうする気にもなれず、ただただこの道をぷかぷか浮いていこうと思っています。

夜行バスの車中より ウチダ

奈良の農民たちに会いました。



京都駅に着いたのは、朝6時半。4列シートの隣座席はやっぱり大柄の男性で、案の定大して眠れませんでした。そこから近鉄に乗って岡寺駅へ。改札をくぐると、久しぶりの顔がお出迎えしてくれました。

三輪夫婦は大学の同級生に紹介してもらったふたり。奥さんの淳子さんもぼくと同じ大学の出身。知り合って以来、ブックパッカーにも参加してくれたり、時折メールのやりとりもあったりして、今年の春に奈良に引っ越して以降、あのふたりがどんな生活をどんな場所でしているのか、気になっていたのです。

レンタサイクルで橿原市と明日香村をまわって、その途中、彼らの畑にもお邪魔しました。自然農の畑はこれまでも数回みてきたけれど、三輪家の畑もしっかり作物が育っていました。にしても、虫の多いこと。コオロギ、トノサマバッタ、てんとう虫、トカゲ、カエルなどなど、歩くとたちまち線香花火のように飛び散ります。土が元気な証拠。夕食も朝食も彼らの手づくり野菜をいただきました。とてもおいしかったです。

夜は、彼らがお世話になっている近隣に住む自然農の農家さんがふたりやってきて、三輪家も含めた数名で始めようとしている企画の話を聞きました。そして、ぼくにはその企画の団体名を命名するという重大な仕事が。夜7時半に始まって、解散したのは深夜1時すぎ。それでもいい名前が浮かばず、諦めて寝ようかと思ったそのとき、ふと思いついた名前が。いやはやがんばってみるものですね。正式に名前が決まり、ホームページが出来上がったら、ここでも紹介しようと思います。そのときまでお楽しみに。

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